第4章 人との出会い
車を変えてから、お客様に、「車、大きくなって儲がってんない!」
そう言われた時、「おかげさまでがんばってます!!」と明るく答えていると、いつしか、“頑張っているパン屋さん”と言われるようになっていました。小さい時からの癖で、誉められるとツイツイ頑張ってしまう私は、いつのまにか営業所で成績トップとなり、全国レベルでもトップクラスになっていました。
年も押し迫ったある雪の降る日の出来事。
小学校の先生方へ、パンの販売に行く約束していた時のことでした。その日は、午後から猛吹雪となり、行こうかそれとも、このまま帰ろうか悩んだ。「こんな時、先生も早く帰って待っていないよな。」と自分なりに解釈して、結局そのまま、寄らずに帰ってしまいました。冬休み明け、昨年のことを、すっかり忘れていた私は、いつもの様にお伺いしました。と、その時、ある先生が静かな声で、淡々と私に話をしてくれました。
「パン屋さん、この前、来なかったね。菊池先生ずっと待ってたわよ。」 「あの日、教頭先生をはじめ、みんな言ったのよ。菊池先生、パン屋さんは、今日は来ないと思うよ。こんな雪が降っている時、来るはずないって!そう、私達は、言ったんだけど、菊池先生は、“あのパン屋さんは、絶対来ますよ”と言って、待っていたのよ。」 私は、その時、あまりにも自分のやってしまったことが、商売をしていく上でやってはいけない事だったと知り、誤る言葉すら出せず、ポカッと口をあけたまま、次から次と話をして下さる先生を見ていました。
そして、菊池先生が、職員室に入ってきました。私は、頭を深々と下げ、心から謝るしかできませんでした。「いいのよ。」と、いつもの笑顔で言って下さった先生。その時、私は、とても複雑な心境でした。本当に申し訳なかった。更に、過信していたこと。おごり。パンを販売して、何を大切にしなくてはいけないかを気付かされました。
そして、帰りの車の中で涙が止まらなかった。
「私を信じてくれた菊池先生、ありがとう!」涙で、前が見えないくらい泣いた。
お客さまへの感謝 1992年 30才の私
次へ
|